#0006 ある支店長の話 ~部下を信頼して守り抜く~

銀行の支店長

あけましておめでとうございます🎍

ワタナベミエです。

2025年の初投稿は、ある支店で起こった忘れられないエピソードをご紹介します。

T支店長は温和で大人しい印象の方でした。しかし、いざという時に見せる男気と信念に、職員みんなが心を打たれたのです。

このエピソードは、部下を守るために支店長がとった行動が、職場の結束を強めた一例として今でも私の記憶に鮮やかに残っています。

日常的にやってくるクレーマー

その支店には、日常的に銀行に来店する、ある取引先の経理担当者A男がいました。しかし、このA男という人物は、いわゆるクレーマーで、窓口の手続きが少しでも遅れると「早くしろ!」と怒鳴りつけたり、A男が勝手に電話を切ったにも関わらず、「銀行の担当者が電話を切った!」と難癖をつけて謝罪を求めたりするなど、日常的に問題行動を繰り返していました。

さらに営業担当との打ち合わせ中、A男の機嫌が悪かったのか「お前みたいな虫けらと話す時間はない!」と暴言を吐いたこともありました。

T支店長以前の支店長たちは、A男の会社との関係悪化を恐れ、彼の問題行動を見て見ぬふりをしていましたが、T支店長の着任後、その空気が一変します。

部下を守るT支店長

ある日、営業担当がT支店長に「A男から『虫けら』呼ばわりされ、融資の話をすることができなかった」と報告しました。その場でT支店長は「すぐにA男を銀行に呼ぶように」と指示を出します。その後、A男が銀行に到着し、T支店長は営業担当と共に応接室に入りました。ここからは営業担当から直接聞いた話です。

T支店長はA男に対して開口一番、「オレの部下を虫けらと呼んだのか?」と問いただしました。その質問にA男は困惑した様子を見せ、答えを濁しました。しかし、T支店長は一歩も引かず、「もう一度聞く。本当にオレの部下を虫けらと呼んだのか?」と再び問い詰めたそうです。ついにA男は観念し、「はい、言いました」と認めました。

それを受けてT支店長は、「いいか、オレの部下を虫けら呼ばわりすることは、オレをバカにするのと同じだ。金輪際二度とそんなことをするな、わかったか?」と力強く言い放ちました。その場にいた営業担当は、T支店長の毅然とした態度と迫力に圧倒されると同時に、「自分を守ってくれる上司がいる」という感動で涙が出たと話してくれました。

それ以降、A男の態度は一変しました。窓口で怒鳴ることもなくなり、暴言を吐くこともなくなりました。さらにしばらくして、A男の社内での配置転換があったのか、銀行に顔を見せることもなくなりました。この一連の出来事は、支店内で「支店長が部下を守るために毅然と立ち向かった」という評価を受け、T支店長は職員たちから信頼される存在となりました。

今までの支店長とは何かが違う

T支店長の普段の姿は温和で静かな人でしたが、いざという時には部下を守るために立ち上がる姿勢は、職員たちの結束を強めました。職員の中には、過去に似たような状況で「お客さまとのトラブルで、支店長に詳細を確認されることなく一方的に謝罪させられた」という経験を持つ人もおり、「これまでの支店長とは違う」と感じた人も多かったようです。この出来事以降、支店全体の雰囲気がより明るくなり、職員間の信頼も深まりました。

職員を守るためにリスクを取る姿勢は、必ずしもすべての支店長が持ち合わせているものではありません。しかし、部下が「自分の意見や立場を理解し、守ってくれる上司がいる」と感じることは、モチベーションや職場の士気に大きく寄与します。私自身も、当時のその支店は職員同士の仲が良く、支店全体で目標に向かって進む楽しさを味わった貴重な経験の場でした。

このエピソードは、ことあるごとに支店で話題に上がりました。支店長と言えば、ただ業績を追い求めるだけではなく、部下を尊重し、部下が安心して働ける環境を作ること。T支店長の「部下を守る姿勢」は、単なる職員への対応ではなく、職場全体の風土を変える力があったのだと思います。その後もT支店長を中心に職員間のコミュニケーションがより活発になり、困難な課題にも一致団結して取り組む姿勢が生まれました。

T支店長のメッセージとは

私が特に印象深いと感じたのは、T支店長の行動が「相手を叱るため」だけのものではなく、「職場の秩序を守る」ためのものでもあったことです。A男に対して毅然とした態度を取ることで、「何を許して、何を許さないか」という自らの信念を明確にしました。このようなリーダーシップの発揮が、職場内外の信頼を生む要因になったのだと感じます。

T支店長の行動を振り返ると、ともするとリスクが伴う選択にも思えます。A男を叱責することで、取引先であるA男の会社との関係が悪化すれば、支店全体の営業成績に影響が出る可能性もあったからです。しかし、T支店長は「部下を守ることが結果的に組織全体を強くする」と信じていたのだと思います。その結果、A男の不適切な態度が改善されただけでなく、職員一人ひとりが自分の仕事に対する誇りや責任感を持てるようになったのです。

このような支店長の存在は、業績以上に職場環境の良さや働きやすさに影響を与えます。どれだけ優れたスキルや経験を持つ職員が集まっても、信頼関係が欠けていては組織としての力を発揮することは難しいでしょう。その意味で、T支店長の行動は、職員一人ひとりに「自分の価値を認められ、大切にされている」と感じさせる、とても重要なメッセージだったのだと思います。

このエピソードを通じて思ったこと

この経験は、私自身が職場でどのように振る舞うべきか、また上司や部下との関係をどのように築いていくのかを考える大きな指針にもなりました。T支店長のようなリーダーの存在が職場に与える影響は計り知れません。その存在は、業務上の目標達成を後押しするだけでなく、職場全体の士気を高め、より良い職場環境を築く基盤となります。このようなリーダーを目指すことが、銀行のみならずどの職場でも求められるのではないかと思います。

T支店長が示した行動は、単なる部下の擁護やトラブルの解決にとどまらず、職場全体の信頼感を築き上げました。職員一人ひとりが「この支店長のためなら頑張りたい!」と思えるようになったのです。それは、業務の効率や成果の向上という形でも現れ、支店全体の結束力が強まったことを明確に感じた時期でもありました。

さらに印象的だったのは、T支店長がこの一件について後日特に言及することがなかった点です。「あの時はこうだった」と自らの行動を誇ることも、「これが支店長としての務めだ」と振り返ることもなく、普段通り温和な態度で業務に戻ったのです。その姿勢が、職員にとってはむしろ深い印象を残しました。つまり、T支店長にとってはこの行動が特別なことではなく、「部下を守るのは当然」という自然な選択だったということです。

一方で、この出来事は職場の中での支店長像を大きく変える契機にもなりました。職員たちが支店長に期待するものは「厳しい上司」や「遠い存在」ではなく、「部下を守るリーダー」なのだと、改めて実感したのです。その後も支店では、協力し合う雰囲気が続き、みんなが自然と同じ方向を向き、一致団結できる非常に良好な関係が続きました。この一件が、支店全体にポジティブな影響を与えたことは間違いありません。このエピソードを振り返ると、リーダーに必要なのは肩書や権限だけではなく、時には部下のためにリスクを取る勇気と、普段からの人間味だと感じます。

私にとってこの出来事は忘れられない思い出であり、これからも仕事に取り組む上での一つの指針となっています。読者の皆さんにとっても、このエピソードが職場での振る舞いやリーダーシップを考える一助になれば幸いです。

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