こんにちは。
ワタナベミエです。
本日は融資先の粉飾決算を見抜けなかったある事例のお話です。
粉飾決算を見抜けなかった悔しさと教訓
融資先が計画倒産を実行し、銀行に多額の損失を与える事態を目の当たりにしました。この経験から学んだのは、決算書の表面だけを信じてはいけないということ。違和感を持ったときに踏み込んで調査する姿勢や、取引先の実態を多角的に把握する力が銀行員には必要です。
粉飾決算を見抜けなかった悔しさと教訓は、私にとって今後の融資業務の在り方を見直すきっかけとなりました。この記事では、具体的な事例をもとに銀行員としての学びを共有したいと思います。
疑念の始まり : 増え続ける売掛金と在庫
ある食品卸売業を営んでいる会社の決算書を確認した際、毎年売上が順調に推移している一方で、売掛金や在庫も同様に増加していることに違和感を覚えました。社長に理由を尋ねると、「地元野菜のインターネット販売を始め、それが売上に貢献している」との説明がありました。
しかし、今や飲食料品のネット販売は競合も多く、新規参入したばかりの会社がこんなにすぐ実績が出せるとも思えませんでした。また販売先や仕入先などの内容を裏付ける詳細な資料は提出されず、その不自然さが心に引っかかったものの、当時の担当者や上司は「長年の取引先である会社がそんなことをするはずがない」と言い、問題なしと判断されました。
粉飾の発覚とその手口 : ネット販売の嘘
結果として、この説明は虚偽であり、売掛金と在庫を意図的に水増しして売上と利益を大きく見せる典型的な粉飾でした。粉飾の目的は融資額の拡大であり、経営の実態とかけ離れた決算書が銀行の信頼をも利用して作り上げられていました。
破綻の瞬間: 突然の営業停止宣言
融資契約の当日、社長は銀行に来店せず、気になって会社に出向くと、「営業を停止する」との貼り紙が掲示されていました。予想外の展開に驚きつつも、ほどなくして弁護士から「受任通知」が届き、債務整理が開始されたことが明らかになりました。
債務整理と受任通知について
「受任通知」とは、弁護士が債務整理を受任した際に、債務者の代理人として債権者(銀行など)に送る通知です。この通知を受け取ると、法律上、債務者本人に直接連絡を取ることが禁止されます。
一方、保証人である社長が個別に債務整理を委任していない場合には、保証人としての責任が残ります。そのため、保証人に対しては連絡が可能ですが、実務上は弁護士を通じて対応するのが一般的です。
※各銀行や弁護士の方針によって細かい対応が異なる場合があるため、参考情報として捉えてください。
社長の告白 : 計画倒産の全貌
その後、社長に直接連絡を取り、話を伺うことにしました。販売先の減少から事業がうまく行かず、数年前から粉飾を行っていたこと、そして廃業のタイミングを見計らっていたことを告白されました。また、銀行に相談しようという考えは全く持ち合わせていなかったことも打ち明けられました。
さらに、「銀行があの決算書を本気で信じていたのか」と嘲笑され、最終的には「これが計画的な倒産だ。誰にも迷惑はかかっていない」と言い放たれました。取引先への支払いを済ませ、残ったのは銀行の借金のみ。あたかも勝利宣言のような態度に、悔しさと無力感を覚えました。
銀行員としての反省: 予兆を見逃した理由
粉飾決算を行う会社が悪いのは明白です。
しかし、それを見抜けなかった銀行員の資質やチェック体制にも問題があると感じます。特に、インターネット販売の実態を調査しなかったこと、過去の実績や社長の人柄に頼り過ぎていたことが大きな反省点です。
この経験を通じて、データの裏にある実態を見極める力や、疑念を深掘りする姿勢の重要性を痛感しました。
終わりに : 銀行員が備えるべき危機察知能力
取引先の破綻は、銀行員にとって避けたい事態ですが、決して珍しいものではありません。今回のケースでは、疑念を抱きつつも見逃してしまったことが、粉飾を見抜けなかった一因となりました。
銀行員として、冷静な分析力や危機察知能力を養い、予兆を見逃さない感性を磨くことが求められます。
この事例を通じて、読者の皆さんにも銀行業務の実態や責任の重さを感じていただければ幸いです。
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